空間に「静けさ」を生み出す、内田繁の代表作
内田繁 チェア September セプテンバー

1993年に発表した折り畳み式の茶室「受庵 想庵 行庵」を携えてヨーロッパを巡回し、世界に日本の伝統美を伝えた内田繁氏。
インテリアデザイナーとしての視点から生み出された氏のプロダクトデザインは、折々の時代性を見据えつつも常に日本の伝統美を根底に置き、その本質を追求したものでした。

1970年代後半から1980年代にかけ、内田氏はスチールパイプを用いた一連の椅子を発表しました。
なかでも、半円形のアーム〜背と三角形の座を組み合わせた「September｜セプテンバー（1977）」は、内田氏の代表作と呼ぶべき家具作品の1つです。

ありふれた工業的素材＝鉄パイプを使用し、幾何学的形状を組み合わせた抽象的造型。
それは家具を「空間の一要素」とみなし、「個性」「特権性」を剥ぎ取ることで空間に「静けさ」を生むことが目的でした。

ありふれたものに美、そして静けさを見出す感覚は、井戸茶碗に「侘び」を見る茶の湯の精神にも通じるもの。
現代的な素材・デザインを通して日本的な美意識を表現したセプテンバーは、文化・個人的な経験に基づく「小さな物語」を重視する当時のポストモダニズムに呼応した作品でもありました。

一方、色彩や造型における「自由」を強く感じさせる他のポストモダン作品と比べ、当時の内田作品は氏独自の世界観を強く感じさせるもの。
その個性の発露は、独特の色彩感覚や浮遊感で唯一無二の個性を放った倉俣史朗氏の作品にも通じるところがあります。

内田氏のみならず、20世紀のデザイン史に残る名作、セプテンバー。
半世紀近い時を経て、今も空間を静かに律する一脚です。









 

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デザイナー : Shigeru Uchida｜内田繁(JAPAN)
サイズ : W900×D475×H680mm（SH410mm）
素材 :スチール（黒／メラミン焼付塗装）、SUSワイヤー張り